オペラがはねたばかりのコヴェント・ガーデン・オペラハウス前。イライザ・ドゥーリトルという花売り娘が、売れ残りの花をさばくために駆けずり回っている。その姿を見ながら一心にノートを書きなぐる男がいた。彼の名はヘンリー・ヒギンズ教授。一流の音声学者で、下町上がりの成金に上流階級の話し方を教えて生計を立てている。彼が「どんなに下世話な花売り娘でも、自分の手にかかれば半年で舞踏会でも通用するレディに仕立て上げられる」というのを聞き《Why Can’t The English? 「なぜイギリス人は英語が話せない?」 》、イライザは猛烈な興味を示す《Wouldn’t It Be Loverly?「素敵じゃない?」 》。
翌朝、ヒギンズの家に「下町流」に着飾ったイライザが現れる。「手も顔もちゃんと洗ってきたんだよ」と、自分を一人前のレディに仕立てるよう頼むイライザだが、ヒギンズは最初は袖に振る。しかし、居合わせたヒギンズの友人で言語研究家のピッカリング大佐が、「もし成功したら、イライザの授業費を全額持つ」と言い出したため、ヒギンズは俄然乗り気になり、イライザの教育を引き受けることにする。
数日後、イライザの父アルフレッドが、ヒギンズの家にやってくる《With A Little Bit Of Luck「ほんの少し運が良けりゃ」 》。彼はイライザがヒギンズに囲われたものと思い込み、それをダシに金をせびりにやって来たのだ。一度は追い返そうとしたヒギンズだが、アルフレッドの話を聞くうちに彼の「道徳観」にいたく感じ入り、5ポンドを渡して帰す。そればかりか、アメリカの投資家に彼を「イギリス一の中間階級道徳家」として推薦する手紙までしたためてしまう《I’m An Ordinary Man「僕は普通の男だ」》。
ヒギンズによるイライザの訓練は困難を極めた《Just You Wait「今に見てろ」 》。しかしヒギンズはついに、イライザに上流階級の話し方をマスターさせることに成功した《The Rain In Spain「スペインの雨」》。狂喜乱舞するヒギンズとイライザ、そしてピッカリング《I Could Have Danced All Night「踊り明かそう」》。彼らは勢いに乗って、ヒギンズの母親がボックスを持つアスコット競馬場に乗り込む《Ascot Gavotte「アスコット・ガヴォット」》。しかし、イライザの社交界デビューは散々なものになった。彼女は上品な話し方こそ身に着けていたが、中身は下品な花売り娘のままだったからだ。イライザの言動のせいで大恥をかき、おまけに母親にまで「人間でお人形遊びをしている」と罵倒され、ヒギンズは雪辱に燃えて自宅へと戻った。だが、ボックスでイライザと同席した貧乏貴族の令息フレディ・アインスフォード=ヒルは、ヒギンズの家まで彼女を追いかけ、彼女に会えるまで玄関の前で待ち続ける決意を固めたのだった《On the Street Where You Live「君住む街角」》。
第2幕[編集]
こうして、実験は成功に終わり、賭けはヒギンズの勝利となった。舞踏会から帰宅し、互いの健闘をたたえあうヒギンズとピッカリング《You Did It「でかしたぞ」》。しかしその2人の横で、イライザは静かに唇を噛み締めていた。彼女はまさに今、自分が単なる実験用のハツカネズミであったことに気づいたのだ。実験を通して、彼女の中には一人の人間としての自我が目覚めていた。しかしヒギンズは、彼女を一人の人間として扱ってはくれなかった。そしておそらくこれからも。
一人きりになった実験室で泣き崩れるイライザ。スリッパを取りにヒギンズが戻ってくる。イライザはヒギンズにスリッパを投げつけ、それをきっかけに大ゲンカが始まる。原因がわからないヒギンズ《A Hymn To Him「男の賛歌」》。「この家に自分の居場所はない」。そう感じたイライザは、こっそり家を出て行く。
外に出たイライザは、待ち構えていたフレディと一緒に《Show Me「証拠を見せて」》自分の故郷コヴェント・ガーデンの青物市場に向かう。しかし、昔の花売り仲間たちは、レディとなったイライザに気づくことはなかった。絶望に駆られるイライザの前に現れたのは、ピカピカのモーニングで着飾った父親の姿だった。聞けば、ヒギンズがアメリカの投資家に出した手紙のせいで、彼は投資家の遺産相続人となり、年4,000ポンドの金を受け取ることになってしまったのだ。その上、翌朝には愛人との結婚式まで控えているという。それでも彼は「イライザを引き取ることは出来ない」と言い張る。そしてイライザに「お前なら一人でもやっていける」と、励ましになっていない励ましの言葉をかけるのだった《Get Me To The Church On Time「時間通りに教会へ」》。
翌朝、イライザがいないことに気づいたヒギンズは大慌て。彼女に秘書的な役も負わせていたので、スケジュールが一切わからなくなってしまったのだ。イライザが逃げ込んでいたのは、ヒギンズの母親の家だった。イライザの理解者となってくれる者は、もう彼女しかいなかったのだ。2人が話し込んでいるところに、ついにヒギンズが怒鳴り込んでくる。ヒギンズの母はわざと、息子をイライザと2人きりにした。イライザはヒギンズに「あなたのことは好きだが、人間として扱ってくれない以上、もう一緒にはいられない」と告白する《Without You「あなたなしでも」》。しかしヒギンズは、ますますへそを曲げてイライザを突っぱねる。結局イライザは再びヒギンズの前から姿を消し、ヒギンズは母親の前でイライザを散々馬鹿にしてから家路に着いた。
しかし、ヒギンズは気づいていた。イライザが自分と同等の人間になっていたこと、そして、いつの間にかイライザのことが好きになっていたことに。しかし、自分はイライザを拒絶した。なぜなら、彼にとって女は一人前の人間ではなかったからだ。それでもなお、彼女の面影は頭の中から離れない…《I’ve Grown Accustomed To Her Face「忘れられない彼女の顔」》。
帰宅したヒギンズは、研究室の椅子で独り想いにふける。録音してあったイライザの声を流しながら。
突然再生が止まり、聞きなれた声がこう言った。「手も顔もちゃんと洗ってきたんだよ」。
ヒギンズは応えた。「私のスリッパはいったい…どこだい?」
マイ・フェア・レディ

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